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ぐ~たらオタクの似非考察日記

アニメ・マンガ・ゲーム・ライトノベルについて考察するブログです。

「ふしぎの国のバード」 100年前の英国人女性から見た日本

この漫画がすごい!というランキングサイトがある。
といっても最近の漫画好きであれば名前くらいは聞いたことある人がほとんどだと思うので今更説明するまでもないかもしれないが。
この漫画がすごい!では毎月オトコ編、オンナ編にわけてTOP10ランキングを発表している。konomanga.jp


ちょっと遅れた話だが7月はオトコ編では沙村広明著「波よ聞いてくれ」、オンナ編では「東京タラれば娘」が一位だった。*1

その中で私が一際興味をひかれた漫画が1冊あった。
それが第7位「ふしぎの国のバード」である。


19世紀に世界中を旅をして回った英国人女性、イザベラ・バードさんが日本を旅して回った時の記録をつづった漫画である。
まるで創作のようなお話だがこのイザベラ・バードさんは創作でもなんでもなく実在の人物である。*2

もともと「イザベラ・バード日本紀行」という名前で書籍が発行されておりイザベラさんが当時の日本の様子をかなり精緻に描いている。

イザベラ・バードの日本紀行 (上) (講談社学術文庫 1871)

イザベラ・バードの日本紀行 (上) (講談社学術文庫 1871)

イザベラ・バードの日本紀行 (下) (講談社学術文庫 1872)

イザベラ・バードの日本紀行 (下) (講談社学術文庫 1872)

「ふしぎの国のバード」はそのコミカライズと言って差し支えないだろう。*3

さて、そんなイザベラ・バードだが実はある界隈で非常によく知られている人物である。
そう、それがネトウヨ界隈である。*4

実はこの本、ものすごく日本を褒める描写が多い。

以下、日光に滞在した時の記述

日光とは「太陽の輝き」という意味で、その美しさは詩歌に詠まれ絵画に描かれて日本全国に知れ渡っています。山々は一年の大半を雪にすっぽりと、あるいはまだらに覆われ、神として崇められるその王者たる男体山を中心に、大連山を形成しています。みごとな樹木の森、まだほとんど人の入っていない渓谷や峠、無限の平穏に包まれて眠る深緑色の湖、中禅寺湖の水が二五〇フィート[約七六メートル]の高さから落下する華厳の深い滝壺、霧降の滝のまばゆい美しさ、大日堂の庭園の愛らしさ、大谷川がその間を上流からほとばしり流れる峠の鬱蒼とした壮大さ、つつじと泰山木の華やかさ、おそらく日本でも比類のない植生の豊富さ。これらはふたりの偉大な将軍を祀った神社周辺の見所のほんの一部にすぎないのです。

( イザベラ・バード (著), 時岡 敬子 (翻訳) , 「イザベラ・バード日本紀行(上)」, 講談社学術文庫, 2008年)

べた褒めである。
実はこの方、朝鮮半島を旅したこともあり、こちらも「朝鮮紀行」という名前で書籍化されている。
しかし、困ったことにこちらの「朝鮮紀行」ではなんと朝鮮のことをぼこぼこに叩いている。

というわけで上記のような事情、つまり日本を褒める描写が多く、更に同じ人物が同じ時期にを朝鮮半島を旅をしぼこぼこに叩いているために日本と朝鮮の比較が非常にしやすい。
そのためいわゆるネトウヨ界隈で非常に多数引用され広まったという経緯がある。
この漫画がすごい!はわりとサブカル寄りなランキングのイメージを持っていたので7位にこの漫画が入っていたのに驚いたというわけだ。

と、ここまで見た方はこの「ふしぎの国のバード」を読む気が失せたという方もいるかもしれない。
が、ここからが本題である。
この、「イザベラ・バード日本紀行」は日本を滅茶苦茶にほめる描写も多いが、実はメタメタに叩きのめしている描写も非常に多い。
どうもイザベラさんは気性の激しい方なのか自分がよいと思ったところは徹底的に褒めまくり逆に気に入らなかった場合とにかく何が何でもメタメタにこき下ろす人のようだ*5

実際、日本の田舎については以下のような内容を書き記している。

この地方の村々はホザワ[宝坂?]と栄山で不潔さの極みに達したにちがいないとわたしには思えます。鶏、犬、馬、人間が薪をたいた煙で黒くなった粗末な平屋にいっしょくたに暮らしており、山になった家畜の糞尿が井戸に流れ込んでいます。幼い男の子で着物を着ているのはひとりもいません。ふんどし以外になにか身につけている男性はわずかで、女性は上半身裸のうえ、着ているものはとても汚く、ただただ習慣で着ているにすぎません。おとなたちは体じゅう虫にかまれた跡が炎症を起こしており、子供たちは皮膚病にかかっています。家屋は汚く、正座したりうつ伏せに寝ているときの人々は未開人とたいして変わらなく見えます。風体と慎みに欠ける習慣にはぞっとするばかりですが、後者に関しては、これまでわたしが交わった何ヵ国かの未開の人々と大いに不利な対比を成しています。もしもわたしが日光、箱根、宮ノ下その他の外国人が短期間だけ訪れる場所にしか行っていなければ、いまとはまるで異なった印象をいだいたことでしょう。よく考えることなのですが、この地の人々の精神状態は肉体的な状態よりずっと高尚なのでしょうか? 彼らは丁重で、親切で、勤勉で、大悪事とは無縁です。とはいえわたしが日本人と交わした会話や見たことから判断すると、基本的な道徳観念はとても低く、暮らしぶりは誠実でも純粋でもないのです。

( イザベラ・バード (著), 時岡 敬子 (翻訳) , 「イザベラ・バード日本紀行(上)」, 講談社学術文庫, 2008年)

この辺なんかはまだゆるい方でもうちょっと厳しいことも色々言ってたりする。
価値観が物質的すぎるとか、丁寧すぎて卑屈だとかね。
また、朝鮮半島についても数年後に再来したときは汚かった街並みが徹底的に掃除されている部分に感動していたりする。*6

特に注目すべき部分はこの人、北海道まで行ってアイヌ民族にまで接触している点である。
この時代のアイヌ民族に関するまとまった記述は珍しく非常に貴重な文献となっている(らしい)。
彫の深い顔立ちが白人に似ているのが気に入ったらしく容姿についてはこれまたべた褒めしていたりする。
一方でキリスト教的な価値観が強く、現代人の視点から見ると無意識に強烈な差別をしていたりする*7など当時の欧米人(英国人)がどのような見方をしていたのかを知ることもでき、非常に面白い。

日本人の容姿を「醜い」といって扱き下ろしたりするし人によってはムカムカするかもしれない(笑)

ネトウヨ界隈のサイトなどで取り上げられることが多く、ひょっとしたら少し抵抗のある方もいるかもしれない。
しかしながらもしそのような理由で躊躇している方がいるのであれば是非とも読んでいただきたい本である。
意外とそんなことないので*8
割りとイザベラさん本人の素直な考え方がモロに出ている書籍だ。
極端に褒めまくったりしているわけではない。

イザベラさんの躁鬱気味のテンションに疲れたり、このおばはん差別思想半端ねえな・・・*9とか思っちゃったりするかもしれないがかなり多角的な視点から当時の日本を見ることができるのおすすめである。

というわけで「ふしぎの国のバード」は今後も続くようだが、きちんと「イザベラ・バード日本紀行」の内容を再現してくれるのであれば非常におすすめだ。
おそらくこの本の見どころである東北・蝦夷地探索は漫画版ではもう少し後になると思う。
その辺までは暫くかかるかもしれないが期待して待とうと思う。

でも、漫画のイザベラさんはちょっと若すぎるね*10

*1:「波よ聞いてくれ」もくっそおもしろいから読んでくれ。相変わらず沙村先生の描く女性キャラは生き生きしている。

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%99%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%89

*3:といっても原典は100年以上前なのでもう著作権などは存在しないはず。

*4:いや、もともとはネトウヨ界隈で知られてたわけじゃないと思うんだけどね

*5:日記だからというのも理由かもしれない。その日起こったことをダイレクトに書くので後からくっつけて編集するといきなり喜んだり怒ったりしてるように見える

*6:まぁ、この理由が日本が併合したために近代化したからではないかと書かれているのが扱いを難しくしているが

*7:アイヌ人に対しても結構辛辣である

*8:ネトウヨ界隈だけに押しとどめておくのは割とマジで惜しい

*9:いや、100年前だからそこはよしなに

*10:実際は日本を旅行した時点で確か既に50代である。